サカイクキャンプやシンキングサッカースクールで長くメインコーチを務める菊池健太コーチと、興國高校サッカー部監督として、30人以上のプロ選手を輩出し、現在は奈良クラブアカデミーのテクニカルダイレクター兼U-18コーチを務める、内野智章氏による対談。

〈好きにやっている子の方が特徴が伸びる〉
菊池:内野さんはプロになる選手を何十人も見てきたと思いますが、人間的な成長と選手としての成功の関連性に関して、どう感じていますか?

内野:サッカーはチームプレーなので、人としての成熟は必要ですよね。人として「いいやつ」じゃないと、チームで浮いてしまいます。(永長)鷹虎もボールを持ったら、パスを出さずにドリブルを仕掛けてシュートばかりしていましたけど、人間的にいいやつなので、周りも「あいつだるいわ」とはならなかったですし。

菊池:いまの子たちはすごく上手なので、人間的な部分を伸ばしていけば、もっといい選手になれるのではないかと思っているんです。

内野:年齢にもよりますよね。小学生のときは、変に賢い子よりも、好きなようにやっている子の方が、特徴が伸びるのかなと思います。

菊池:サカイクキャンプでは、人間的に成長してもらいたいという想いがあり、オフザピッチの部分も非常に大切にしています。キャンプで掲げている5つのライフスキル(リーダーシップ、コミュニケーション、感謝の心、考える力、チャレンジ精神)は、ピッチの外でも育むことができると思っています。

〈練習しすぎるよりも遊んだ方がいい〉
内野:人間性を高めるためには、サッカー漬けじゃないほうがいいですよね。友達との遊びや家族とのふれあいの中で、育まれていく感性もあると思います。僕は遊びがある選手が好きなので、練習しすぎるよりも、もっと遊んだ方がいいんちゃうかなと思っています。これを言うと、子どものサッカーに真剣な親御さんに否定されちゃいますけど(笑)

菊池:子どもと一緒にいられる時間は、小学生の間だけと言っても過言ではありません。うちの子もサッカーをしているのですが、中学に入ってからお互い忙しくなり、一緒にいる時間がほとんど取れなくなりました。それもあって、保護者の方には「一緒にいられる時間は少ないので、サッカー以外のことをするのも大切ですよ」と伝えています。

内野:この記事を読んでくれているのは、お子さんのサッカーに熱心な保護者の方だと思いますが、あまり親が真剣にならず、子どもの好きなようにやらせてあげてほしいと思います。

〈反省会はいらない〉
菊池:保護者の中には、「子どものサッカーを見るのが苦痛」という人もいます。うちの子が試合に出られない、ミスをした、勝った負けたで一喜一憂しすぎる傾向にあるので「サッカーで幸せになってほしい」と、よく言っています。試合のビデオが、反省会の材料になっていたりするので……。

内野:反省会は絶対にいらないです。

菊池:ある選手が「試合後の車の中が地獄だ」って言っていました。

内野:絶対いらないですよね。僕は聞かれるまで何も言わないですね、自分の子どもには。

菊池:できなかったことを指摘するのではなく、まずは親子で一緒に楽しむことが大事ですよと、保護者の方にも伝えているんです。

内野:僕が「ウチノメソッド」で目指しているのが、公園やストリートで楽しくサッカーをすることであったり、近所のめちゃくちゃ上手いお兄ちゃんに教えてもらう環境を作ることなんです。

菊池:素晴らしいと思います。

内野:樺山(諒乃介)は小学生のとき、サブで試合に出られず、悔しさのあまり一人で公園に行って、YouTubeを見ながらドリブルの練習をしていましたし、宮原(勇太)は小学生のとき、「ドリブルで全員抜きたいから、ゴールキーパーを志望した。ボールを捕ったら、ドリブルで全員抜けるから」って。もうわけわからないでしょ(笑)。鷹虎もそうですが、小学生のときに、自由にプレーさせてもらえる指導者、クラブのもとでプレーできたから、ああなった部分もあったと思います。

菊池:小学生年代は、とくに大人の影響は大きいですよね。その子の、最初のコーチになるわけですから。憧れのコーチでありたいですよね。

内野:絶対にそうです。いつまでサッカーをするかは、小学生時代の指導者との出会いで決まるんじゃないですか。7割ぐらいは、選手のサッカー人生が決まるんじゃないかなと思いますけどね。

菊池:「好き」は入り口の大事な部分ですもんね。